「町工場」とグーグルで検索をかけると、サジェストワードとして「やめとけ」とすぐに出てきます。
現在僕は、家族経営の町工場で働いて6年目です。
そんな僕がもしも知り合いに「町工場で働こうと考えているんだけどどうかな?」と聞かれたとします。
そしたらもちろん言うでしょう、「町工場はやめとけ」と。
今回は、町工場で実際に働く僕が、「町工場はやめとけ」と言いたくなる理由について書き出してみます。
「町工場で働いてみようかな」
「町工場の求人があったんだけどどうだろう」
と考えている方がいたら、参考にしていただければと思います。
※あくまでも「僕の働いている町工場はこういう状況です」というものなので、全ての町工場に当てはまるわけではありません。
金銭面:「やめとけ」と言いたくなる町工場の実状
まず、働くうえで最も重視している人も多いであろう金銭面についてです。町工場で働く時点である程度は察しがつくことでしょうが。
高収入は期待できない
僕が入社したのは6年前で、そのときの給料は18万です。そして最初のボーナスは1万円でした。
もちろん前職から減少しました。
現在僕が住んでいる部屋を借りたの町工場で働いて2年目のときで、契約時に記入した年収は250万円です。
不動産屋さんもよく貸してくれましたと思います。
6年目の現在は、国税庁が出している平均年収くらいは貰えています。
しかし昨年はボーナスを合計20万円減らされたので、町工場での給料の限界を感じています。
「上場企業の平均年収くらいは払いたいと思っている」「頑張りによっては臨時ボーナスを考えている」と社長が言うことがありますが、これは実現しないでしょう。
僕らを働かせるために調子のいいことを言っているだけです。
社長の母親が「ウチの労働環境で500万がもらえるとしたら充分だろう」と言っていたことがあります。
それを聞いて、もう頭打ちだなと思いました。
業務面:「やめとけ」と言いたくなる町工場の実状
町工場というと「宇宙開発にも使われるほどの高い技術」というイメージを持つ人も多いのかもしれません。
たしかに高い技術力を持っている町工場も多いと思います。それであっても僕は「町工場はやめとけ」と言いたいです。
僕が働いていて感じることは以下の3つです。
- 身につくのは潰しのきかないスキル
- 要求される精度は高い
- 一般的なビジネスマナーは身につかない
順番に見ていきます。
身につくのは潰しのきかないスキル
令和に生き残っている町工場は、ニッチな業界であったりコアな技術を持っていたりする場合が多いと思います。
変化の激しい時代を生き延びているのには、何かしらの理由があるはずです。
僕が身を置いている業界は狭く、同業者も日本に30人もいるのかどうかすら怪しいです。
ニッチな業界で身につくものはニッチなスキルです。
同業種であったとしても、作り方そのものが違ったり、加工に使う機械そのものが違ったりするので、転職に役立つのかどうか怪しい技術と知識です。
どんなことであっても経験そのものは無駄にはならないでしょうが、苦労して身に付けたものが一歩外へ出ると何も役に立たないというのは悲しいですね。
そもそも僕は同業種に転職する気もありません。今の仕事を一生やるなんて考えたくないです。
要求される精度は高い
前述のとおり、令和に生き残っている町工場の理由はニッチな業界と高い技術力にあると考えられます。
実際に僕が働いていて、ナノメートル単位を要求されることもあります。
そして時代はもっともっと高品質・高精度化が進むことになるでしょう。
今の要求ですらかなりキツいのに、生き残るためには技術を高めなければなりません。
一般的な企業は、研究・開発、設計、量産、測定などはそれぞれの部門がありますが、僕の働く町工場ではそういったことを全て自分でやります。
先ほど書いたナノメートル単位が要求される業務ができるのは、会社内で僕だけです。
まったくノウハウのないところから作り方を考え、試行錯誤し、なんとか作り方を確立しました。これは通常の納期のある仕事をこなしながらです。
一番業界の歴が長いはずの社長は技術向上から逃げているので、開発の協力をしてくれませんでした。誰にも相談できないまま作り続ける日々はなかなかにキツいです。
そして社長はその大変さがわからないので、難しい仕事を安請け合いして取ってきます。
作ったことのないような形状の仕事もしばしばあります。それでも仕事として取ってきてしまった以上、納期に追われながら冷や汗をかきながら必死で仕事をする日々です。
なんとか作っても特に評価されることもなく、給料は安いままです。
むしろ去年は会社として出来ることが増えたにも関わらず、ボーナスを減らされるという謎です。
一般的なビジネスマナーは身につかない
ニッチなスキルは身につきますが、社会人として当然身につけるべきビジネスマナーは身につきません。
入社したら即現場です。
通常の企業がある程度時間をかけてやるような新入社員研修のようなことは一切行われません。
そのため電話応対、ビジネスメール、名刺交換のやり方、敬語などは学べません。
僕は前職でそれらを教えてもらったので良いのですが、僕が入社したときにいた先輩は新卒で入社したためにこういったことが一切できませんでした。
一般的なビジネスマナーを身につけることができないまま歳を取り、出来ることはニッチな分野の加工技術っていうのは少しかわいそうだなあ、と当時の僕はその先輩を見て思っていました。
その先輩は社長にやめさせられたのですが、今何をやっているのか知りません。ちゃんと働けているといいのですが‥‥。
そもそも社長すらこういったことをちゃんと学んできていないので、電話対応やビジネスメールの文章などがおかしいと感じることが多々あります。
会社のトップがビジネスマナーを身に着けていないので、従業員にビジネスマナーが身につかないのは当然のことです。
環境面:「やめとけ」と言いたくなる町工場の実状
環境面についてです。
町工場という時点で、なんとなく「労働環境は悪そうだな」と思うのではないでしょうか。
「町工場はやめとけ」と言いたくなるポイントは、以下の4つです。
- 年間休日数は少ない
- 有休は取れない
- 病気・怪我になるリスク
- 研修マニュアル・人事評価制度などはなにもない
おそらく多くの方が想像しているとおり、実際に労働環境が良いとは言えません。
年間休日数は少ない
年間休日数は一般的な企業に比べて少ないです。
完全週休2日で、祝日とお盆と年末年始を休むと年間休日は120日を越えるのが一般的な企業だと思われます。
町工場は一般的に120日以下であることが多いように思います。取引のあるところでも、ゴールデンウィーク関係なく働くというと話をちらほら聞きました。
僕の働いている町工場の年間休日は115日です。
祝日のある週の土曜日は出勤することがあります。
これだと土日で2連休にならないので、祝日に出勤するから土日休みにしてほしいのが従業員の本音です。
有休は取れない
町工場は短納期や低価格で仕事を取っている場合がほとんどだと思われます。
そのため仕事が横入りのように入ってくることがあります。
「今月は結構余裕がありそうだなあ、金曜日有休取ろうかなあ」なんて考えていたとします。
しかし突然2日後に発送しなければならない仕事が舞い込んできて「休んでいるヒマなんてない!」なんてことが多々あります。
そういった可能性が常にあるため、予定が立てられません。
厚生労働省では年5日の有休取得が義務付けられているようですが、取れたためしはありません。有休を取るよう促されたこともありません。
そもそも飲み会のたびに「昔の人は休まないで夜遅くまで働いた」という話を聞かされます。
昭和を引きずっている経営者の会社です。
病気・怪我になるリスク
僕は入社して6年目になりますが、去年(5年目の年)まで健康診断は受けさせてもらえませんでした。
経営陣が意図的に受けさせていなかったのかどうかはわかりません。
加入している健康保険協会が35才未満の加入者には健康診断費用の補助が出ないため、受けさせなくてもいいと思ったという認識だったとのことです。
また発がん性のおそれのある有機溶剤をろくに知りもせずに使っていました。
水のようにジャブジャブと使っているこの薬品は何なのかと疑問に思い調べてみると、発がん性のリスクがあることがわかりました。
その認識があるのかと社長に聞いてみると、もちろん知りません。「他社もつかっているから大丈夫」と言われました。
ほかにも、加工中に火花が散ることがあったり、1000℃近い温度を扱うことがあったりするにも関わらず、消火器の一つもありませんでした。
念のため置いておいたらどうかと提案しても「今まで一度も火事になったことはないから」という返答が返ってきました。
粉塵や切り粉などが飛んでくることが多い業務なのに保護メガネがなかったり、失明する可能性のある薬品を使うにもかかわらずゴーグルもありませんでした。
これらを用意したほうがいいと言っても「今まで一度も失明した人がいないから」という返答でした。
「うちの会社は創業以来一度も労災をつかったことがない」と社長の母親が自慢していますが、みんな小さい怪我などはたくさんしています。
そういったことを言い出しにくい環境だったり、そもそも労災の申請手順を知らなかったりするだけです。
僕もつい数日前に思いっきり切り粉が目に入りました。
研修マニュアル・人事評価制度などはなにもない
それなりの規模の会社であれば当然あるようなものはありません。
業務に関しては「感覚」という魔法の言葉で片付けられます。
出来るようになれば「感覚が身についてきた」、出来なければ「感覚が養われていない」とだけ言われて、大した研修もなくてきつかったです。
そういった人の育て方が嫌で、マニュアルを作ろうとしていたのですが、基本的には製品を作って売上を作らないと仕事として認めてくれません。
「そんなことは時間の無駄だ」と社長に言われ、カチンと来たので抗議したのですが無駄でした。
人事評価制度も全くありません。
昇給などの評価に関しては社長と社長の母親の好き嫌いで決まります。
どんなに他社が僕の作った製品を評価してくれて仕事につなげても、最近の僕は経営陣に嫌われているために給料を全然上げてもらえません。
時給で言うと10円上がったくらいの昇給額です。
会社は変わらない・変えられない
町工場で働き始めた当初は、従業員が5人もいない小さな会社なので、ある程度会社に貢献できるようになったら僕の提案を聞いてもらえるだろうと思っていました。
整っていない環境は、自分が認めてもらえたら提案して変えていこうと思っていました。
しかし会社の規模は関係ありません。
逆に創業50年以上の昭和を引きずった会社だからことなのか、変化を嫌います。
提案をしているだけなのに「あいつは口うるさい」「会社の文句ばかり言う」という評価を受け、経営陣に嫌われます。
その結果、給料は上がりませんし、転職を考えることになります。
まとめ:町工場はやめとけ
「ほとんど愚痴じゃねえか」と思われる方もいると思います。
実際僕もそう思うのですが、結構同業者に話すと「町工場あるあるだねえ」と言われることが多いです。
さて、長くなってきましたので、ざっくりまとめます。
「町工場はやめとけ」と言いたい理由としては
- 給料は低い
- 休みは少ない
- 潰しのきかないスキルしか身につかない
- 労働環境は悪い
といったあたりです。
しかし少し調べてみると、環境が整っているホワイトな町工場も中にはあるようです。
町工場だからダメというわけでは無いのでしょうね。
大手企業にもブラックなところはあるでしょうから、考えてみれば当たり前ですね。
僕としては、町工場の社長の社会人経験に左右されるような気がするので、それに関しては以前書きました。
ななめ読みでもしていただけると嬉しいです。
それにしても、自分の会社のダメなところを書いているとつくづくこんなところにしか勤められない自分が情けなくなります。